アイテルシー ‐ i tell c‐ 単行本第一巻感想&考察【ネタバレあり】

考察

今回は、4月30日発売のアイテルシー一巻の感想と考察をしていきたいと思います。

以前に紹介記事を書きましたが、内容には触れなかったので、本稿ではガッツリネタバレしていきたいと思います。

まだ、ご覧になっていない方は、紹介記事の内にジャンプ公式のリンクを貼っていますので、無料公開されている第一話だけでも読んでいただければと思います。

【おすすめ漫画】アイテルシー ‐ i tell c‐ テクニカルな展開に驚愕必死!コミック第一巻発売間近(4月30日)
『恋は突然だ』『すれ違うだけで、その者が纏うもの全てが運命だと教えてくれる』美しくも不穏さを孕む導入からテクニカルな展開を経て、最後は膝を打つ納得の結末。新感覚サスペンス漫画アイテルシー ‐ i tell c‐のご紹介です。

一話目のエピソードが叙述トリックになっていたので、なるべく事前情報を排して読んでいただきたいと思い、記事を書きました。正味な話、あまり魅力を伝えられなかったと反省しています。

今回は、少しでも本作の魅力が引き出せれば幸いです。

アイテルシーの魅力

アイテルシーとは、刑事サスペンス漫画です。

そのジャンルの性格上、登場人物の大半が刑事か犯罪者、被害者になります。

あらすじ

不安を纏って影が男に迫る..

人気の女性タレントが殺された!
捜査線上で浮かび上がったのは、1人の怪しげな女性。彼女の次なるターゲットは人気俳優「田亀」。
容疑者の狙いは一体…?双子の刑事がその影を追うが?超異質クリミナルサスペンス堂々開幕!!

叙述トリック

これは一話目のあらすじです。上記の通り、叙述トリックになっています。

中盤までは、主人公があたかもストーカー犯罪の加害者のように演出がされています。

叙述トリックとは、ミステリ作品に用いられる手法で、「読者を騙すトリック」の事です。

通常のミステリでは、作中世界内で加害者が探偵役の推理や捜査の目を搔い潜るための工作がトリックとなります。しかし叙述トリックは、作者が読者の目を欺くために仕掛けられます。

例を挙げると、作中に「ミヤギ ケン」というメモがあったとします。読者は宮城県と書かれていると勘違いしがちですが、実は宮城健という人名でした。というトリックです。この場合は、登場人物は宮城健なる人物に心当たりがありますが、読者には上手に伏せられています。

アイテルシーは、叙述トリックを演出に活用した作例ですね。

相生りさ

本作の一番の魅力は、主人公相生りさの設定でしょう。

りさは、警視庁刑事部捜査第一課所属の美女刑事で、「犯人に恋をする」という特殊な性癖を持ちます。

彼女は、かつて少女誘拐事件の被害者という過去を持ち、それが原因で犯人に恋心を抱くようになりました。

劇中劇の刑事ドラマでは、犯人役の俳優にときめくなど折り紙付きの変態です。

これは、ストックホルム症候群が原因と思われます。

ストックホルム症候群

誘拐事件などで監禁状態に置かれた被害者が、長時間の緊張状態を加害者と共有するうちに、心理的に繋がる現象のことです。スウェーデンのストックホルムで起きた銀行強盗立てこもり事件の故事に倣ってこの名前で呼ばれています。

フィクションではよく題材になり、扱いとしては『吊り橋効果』の派生のようにみられがちですが、れっきとしたPTSD(心的外傷後ストレス障害)です。

りさの捜査

相生りさは、犯罪すれすれの違法捜査によって、驚異的な検挙率を誇ります。

その尋常ならざる捜査方法は「毒を以て毒を制す」といわれる程です。

それらは全て、犯人への愛がなせる業なのです。

りさは、恋愛とは相手を知ることから始まると考えているので、犯人のことをとことんまで調べ上げます。

それにより対象の行動履歴を洗い出し、思考や嗜好を模倣することで犯行を推理し、犯罪を立証します。

その性癖や捜査方法、検挙率の高さから同僚の刑事達からはやっかみ半分で煙たがられています。

しかし、警察組織からは対犯罪者への切り札として存在を黙認されています。

目的

相生りさの目的は、二つです。

一つは犯人と添い遂げる事。つまり犯人逮捕が目的ではありません。

警察関係者から色眼鏡でみられる最大の要因でしょう。

実際これは、犯罪に対して罰することを重要視しない考えです。

さらに、犯人に殺されることも辞さないような危険思想にもみえます。

なぜそのような行動をとるのか?

りさは犯人に寄り添うことで、心の隙間を埋め、犯罪の動機を消すことを目指しています。

罪を憎んで人を憎まず、を体現した存在でありたいと考えているようです。

これは、筆者の解釈であり持論ですが、罪に対して罰を与える事の目的は「許し」です。

対して、相生りさは、犯人へ「救い」の手を差し伸べられる存在でありたいと思っているのかもしれません。

もう一つの目的が、

五年前に自身を誘拐した犯人である、鏡野日(後述)を逮捕または、殺すことです。

これに関しては、現段階では真相が語られていなにので確かな事はわかりませんが、りさはハッキリとした殺意を口にしています。

ただし、作中で登場した、鏡野とりさが愛した誘拐犯の犯人が同一人物という確証は、現段階で(コミック派に)はありません。

例えば、鏡野日が二重人格で、主人格である誘拐犯の人格を消し、鏡野日の現在の人格が表に出てきているなど可能性があります。(遊戯王のバクラのイメージです)

掘り下げて考察しても面白そうですが、想像の域を出ません。

りさの目的は、どちらも誘拐事件での経験に起因するものなので、事件の真相が語られるのを座して待つ他なさそうです。

登場人物

警察関係者

二月右近(ふたつきうこん)
警視庁所属の刑事。落ち着いた性格の青年です。過激派の甘党で、毎話甘いものを食べている上に苦いものを恐怖の対象としてみています。左近と違い体力はありません。単行本第一巻時点では、出来る奴感が漂う割に目立った活躍がありません。今後に期待です。

二月左近(ふたつきさこん)
警視庁所属の刑事で右近の双子の弟。肌黒であり、性格は兄と違い熱血な所があります。筋肉とプロテインをこの上なく愛するトレーニーですが、脳筋の単細胞というわけではありません。りさの出したヒントから犯人を割り出し、りさの窮地を救うなどしています。りさの考え方には共感しかねる態度ですが、警察内部でのりさに対する風当たりにも不服申し立てるなど、自身の正義に忠実な正義漢です。

作中では、りさの性癖がクローズアップされますが、この二人も大概やばい人です。
りさは、どちらかといえば常識人です。

警視庁捜査第一課 課長
肩書のみ登場してる、りさの上司です。長髪で丈の長いコートを着ています。もしアニメ化した際の声優は、恐らく森川智之さんではないかと思われます。

犯罪者

鏡野日(かがみのひかる) 
物語開始5年前に起こった、明珍市少女誘拐事件の犯人。事件の被害者は相生りさであり、彼女が最初に愛した犯人とされていますが、現在では敵意を向けられています。5年前とは人相が変わっており、りさや右近は気が付きませんでした。小説家を名乗っており、取材として犯罪現場を訪れていたところを、りさ達と邂逅。何食わぬ顔で、一行の団欒へ入り込みます。

森羅万象あらゆる事柄を自身の創作する小説の物語上での出来事だと考えている、わかり易いサイコ野郎です。他者への慈しみや献身は皆無であり、自分の思い描いたストーリーから物事が外れると、容赦なく殺そうとします。

殺人を厭わない犯罪者ですが、本人には罪の意識はありません。りさに対しても「悪いことはしたことがない」と、うそぶいていました。

痛覚がない描写があります。

何かの伏線かわかりませんが左利きで、ナイフを左手でフォークを右手に持ちます。拳銃を左手で持ったり右手で持ったりしているので、両利きか作画ミスかもしれません。

感想と考察

評価・批判

一巻を読んだ評価としては、55点くらいだと感じました。ちょっと辛口でしょうか?

筆者は本作一話時点で、サスペンスホラーとミステリ要素、更にパラフィリアの解放を挑戦的に描いた傑作を予感していました。

残念ながら、読了後にそこまでの感動はありませんでした。

相生りさを始め、キャラクターの内面や心情を描写するのが早すぎたと思います。

りさの「犯罪者を愛する」という設定は、そもそも共感を抱きずらいものです。それは説明されたところで変わりません。

にもかかわらず、早い段階で思想を開けっ広げてしまうと、りさの献身性や優しさよりも、底が知れた印象が強くなってしまいます。

相生りさを刑事という設定にしたことは失敗だったかもしれません。
何故なら上記の思想は犯罪肯定に繋がるからです。立場との整合性が失われてしまっています。

これにより、否定する理屈を作中で説明する必要性が出てきてしまいます。

結果「拙速な内面描写」に繋がったのは想像に難くありません。

加えて違法捜査もコメディとして描いてしまい緊張感が損なわれています。

一話目で感じた、「りさの持つ薄気味悪さ」という強みを早い段階で手放したのは勿体なかったですね。
 

この薄気味悪さを活かして成功した好例として、シャーロックホームズシリーズがあります。 

世界一有名な探偵シャーロックホームズは、社会不適合者で、常人には理解できない言動が目立ちますが、そのキャラクター性も魅力です。

シリーズが傑作と呼ばれているのは、そのキャラクター性も含まれている事は言うまでもありません。

理解できないモノ対する興味が、作品に人を惹きつけるのだと思います。

更にモリアーティ教授という同等の怪物同士の潰し合いが読者を熱狂させるのです。

「変態」は、巨大な他者としてそこに存在するからこそ魅力的なのだと筆者は考えます。
それは理解できないモノの象徴として存在してほしいと思います。

もちろんそういった作品やキャラクターが全てではありませんが、少なくともアイテルシーはそのカテゴリーの作品だったと思います。

三幕構成からみた一巻

上記の批評はあくまで一巻を読んだ時点での評価であり、筆者が過剰に期待していたことは差し引いて考えるべきでしょう。

それを踏まえて再考し直しますと、作品としては及第点の出来だったと思います。

ただ、打ち切りの危険性が高いのが現状でしょう。

個人的には、画力は評価に影響させていませんが、アクションシーンが淡白で少年漫画としては迫力がないのも痛いです。

悪いところばかりを論ってしまったので、これから期待したいポイントを探したいと思います。

ここからは、三幕構成の考え方を取り入れながら、第一巻を分析していきます。

三幕構成

三幕構成とは作劇法の一つで、物語の設計図を書くときに用いられる考え方です。

劇作品や映画、ドラマなどで活用されることが多いですが、漫画でも応用可能です。

この図は、筆者がマーダーミステリーを自作する際に学んだ、三幕構成の勘略図です。

作品は、大雑把にこのような構成に分けることが出来ます。

一幕(設定)二幕(対決)三幕(解決)と定義することができ、第二幕の前後で主人公が成長する事が大きなテーマとして扱われることが多いです。

アイテルシーが、この三幕構成の考え方を取り入れた設計図でストーリーを構成されているのか検証していきたいと思います。

第一幕

第一幕は、主に物語の説明です。

視聴者に、この作品は、誰が主人公で、どういう世界が舞台で、どんな状況で、何をして何を目指す物語なのかを説明します。

全体の10%程を割くといわれています。第一幕は以下の三つに大別することが出来ます。

  • オープニング
  • セットアップ
  • ファースト・ターニングポイント

アイテルシーでは、一巻が終わった時点では、一幕分を消化したとはいえなさそうです。

一巻終了時点では、セットアップからファースト・ターニングポイントの途中くらいでしょうか。

セットアップ

上記した物語の説明は、主にこのセクションで行います。

セットアップには、更に細かく、

  • インサイティング・インジテント
  • セントラル・クエスチョン

という二つの要素に分けることが出来ます。

インサイティング・インジテントとは、フックとも言い、次のセクションであるファースト・ターニングポイントの「きっかけ」になる出来事が起こります。

ファースト・ターニングポイントは序盤の見せ場ですので、その場面への導入は重要です。

ここで作中を通しての敵対者を登場させる場合もあります。アイテルシーでは、まさにその作例が用いられていますね。

次にセントラル・クエスチョンについてです。

これは、概念的なもので、視聴者が抱く「主人公は目的を達成できるのか?」という問の事です。

セットアップでは、主人公のパーソナルな情報が公開され、主人公の課題や目標が具体的に何なのかがわかります。

明文化されるのではなく、描写によって自然と抱かせることが望ましいです。

この回答がクライマックスでイエスorノーで提示されます。

分析・考察

結論から言って、アイテルシーの稲岡先生は三幕構成を学んでいる可能性が高いです。

単行本第一巻収録話の内容と三幕構成一幕のセクションがほぼ当てはまります。

詳しくは割愛しますが、第一巻時点で、三幕構成で推奨される、

  • 世界観の説明
  • 相生りさの思想と目的
  • 敵対者の存在

これらの項目が描写されています。

作者が意図的に情報を開示していることが解ると思います。

読者は、これらの情報により、

「相生りさは、犯人を救う事と鏡野日を殺すという矛盾した目的を達成することが出来るのか」

というセントラル・クエスチョンを抱くに至ります。

特に顕著なのが敵対者の存在でしょう。

三幕構成でもない限り、普通はこんなに早い段階で登場させないです。

おそらく、10~12巻程で完結するように設計図が書かれていると考えられます。

まとめ

一巻時点でのアイテルシーは、個人的な評価では、決して秀でた作品とは言えませんでした。

しかし、三幕構成という作劇法の基本に忠実に制作されている可能性が高く、ここからの盛り上がりも十分期待できます。

何故なら、かの『鬼滅の刃』は、明らかに三幕構成に準拠した漫画であり、三巻あたりからの徐々に評価され始めた作品だからです。

三幕構成はシンプルで、読者に作品のテーマをわかり易く伝えることが出来るので、少年漫画と相性がいいです。

例えば、鬼滅の刃セントラル・クエスチョンは、「炭次郎は、鬼の親玉を倒して、妹を人間に戻せるのか?」です。これは一話目で炭次郎が富岡義勇に語った「妹は元に戻す」「鬼の親玉は自分が倒す」から一貫した目標です。さらに言えば、物語序盤の無惨との邂逅や珠緒との製薬契約も三幕構成のセットアップに当たるエピソードです。

脱線していしまうので、鬼滅の刃の解説は、機会があれば記事にしたいと思います。

ここで鬼滅の刃を引き合いに出したのは、三幕構成は物語が破綻しずらく、良作になる確率が高いという事をお伝えしたかったからです。

個人的には、アイテルシーは鬼滅の刃とコンセプトが近いと考えています。

これは作者がどうの、というより編集部のディレクションによって、読者のニーズを探っているのではと予想します。

もっと確信が持てたとき改めて記事を書きたいと思います。

後半は少し、早足になっていしまいましたが、今回は以上となります。
最期までのお付き合い、ありがとうございました。


アイキャッチ画像は「風翠」さんにお借りしたイラストを使用しています

風翠 – pixiv

風翠@skebさん (@kazami_38b48b) / Twitter

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